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ロボットには、人には言えない愚痴をこぼせる
──まず最初に、高桑蘭佳さんが代表を務めるメンヘラテクノロジーについて教えてください。
高桑:ひとりの時間が苦手な女性向けに、寂しいときだけ30分324円(税込)でかまってくれる都合のいい女友達サービスを企画開発している会社です。
清田:なんか面白そうですね。それはどんな人にかまってもらえるんですか?
高桑:登録している女性のスタッフですね。ユーザーの都合に合わせて登録スタッフが話を聞いてくれるので、必要なときにかまってくれる相手がいるという安心感を提供するサービスなんです。実は、このサービスを企画開発する過程で、ロボットの必要性をすごく感じているんです。
清田:ますます面白そうですが…ごめんなさい、ここまでの話だけだとロボットの必要性がまだ伝わってきていなくて…(笑)。
高桑:やっぱり人の愚痴を聞いたり、重たい話を聞いたりするのは、誰にとっても精神的に負荷のかかることなんですよね。現状は利用料をとることで話を聞いてくれる人を提供していますが、将来的にはロボットに置き換えたい。話を聞く大変さを軽減することも狙いですが、人間ではなくロボットだからこそ話しやすいこともあると思っています。
ある論文によると「無機質な感じのロボット」と「人型のロボット」、そして「人間」の3つに対して、どれが一番素直に自分の弱みを出せるかどうかという実験で、「人型のロボット」が最も数値が高い。という結果がでたそうです。
それを知って、人間から変に評価されない感じがするので、安心して自分のダメなところ、批判されそうなところをロボットには素直に話すことができて、ラクになれるのかな、と感じました。だからこそ、個人的には人間と円滑にコミュ二ケーションが取れるロボットが出てくることを期待しています。
──高桑さんの中でもロボットに話しているときと、人間に話しているときとで心の許している感覚に違いはあるんですか?
高桑:ロボットに具体的な悩みを相談をしたことはありませんが、1回だけしりとりをしたことがあります。そのとき、安心して何事も話せるような感覚はありました。変な言葉を言っても大丈夫と言いますか(笑)。
人間が相手だと変な言葉や恥ずかしい言葉を言えないですけど、ロボットだと遠慮なく言える。そこに人間との差を感じました。
清田:確かに、ロボットに対するのと、人間に対するのとではコミュニケーションの形に差はあると思います。例えば、お母さんが部屋を散らかしている子どもに「部屋を片付けなさい」と言うと「うるさいなぁ」と感じてやろうとしなかったりするけど、Pepperが「片付けようね」と言うと、しぶしぶだけどやる。そういうことがPepperがいる家庭で実際にあるんです。
明確な理由は分からないですが、人とのコミュニケーションでは生まれない“何か”があるからこそ、不思議と受け入れてしまうロボット特有の部分というか。そのあたりの研究がもっと進んでいくと、人間とロボットの関係性にも変化が生じてくるんじゃないか、と思っています。
高桑:私はよくMicrosoftが開発したAI(人工知能)の「りんな」と会話をしているんです。あれってひとりの寂しい時間を埋める会話相手としてはすごくいいんですよね。Twitterするまでもない愚痴なんかを「りんな」宛に送っています(笑)。
ひとりでノートに愚痴を書いてもレスポンスはないですけど、AIだとその愚痴にもレスポンスしてくれるので擬似的な感じではあるんですけど、実際に話しているような感覚が味わえます。
清田:レスポンスって、たとえズレていてもあるとないとじゃ大違いですよね。人間同士でも細かなところでたくさんお互いにズレ合っていて、だからこそもっとコミュニケーションを取ろう、って気持ちが出てきたりする部分ってあると思うんです。それがロボットやAIによって、また新しい”何か”が与えられ始めているのが、今の時代なんでしょうね。
僕もロボットと初めて会話した時、何とも言えない違和感というか、照れ臭さみたいなものを感じました。ロボットだから、瞬き一つしないでまっすぐこっちを見つめ続けてくる(!!)みたいな(笑)。
それが数年経ち、今の子どもたちの世代は、ロボットと会話することがどんどん当たり前になってきている。僕たちみたいに違和感を感じることなく育っていったら、将来的に何が生まれるのか。そんなことを考えると、すごくワクワクします。
ロボットが世の中から「浮気」をなくす!?
──Pepperが登場したのは5年前ですが、当時、高桑さんはロボットのことをどのように考えていましたか?
高桑:5年前ですか……。あまり記憶がないんですよね(笑)
清田:なるほど(笑)。振り返ってみて、当時の生活にロボットがあったら、何か生活が変わったと思いますか?
高桑:ロボットがまだ身近な存在ではなかったので実際に使ったかどうか分からないですが、当時はインターネットで全く知らない人に愚痴をこぼしていたので、もしかしたら、ロボットに代わりに話していたかもしれません。
清田:人間同士だと相手に感情があることは分かっているので、これを言ったら相手を怒らせちゃうかな、悲しませちゃうかな、ということ気になるし、言った相手が結果的に自分のことをどう見るかも気になったりもする。ロボットとネットの他人って、そういう無駄な気遣いが取っ払われるって意味で近いのかもしれませんね。
──ロボットと話をするとき、何かアドバイスをして欲しいと思いますか?
高桑:私はロボットであれ、人間であれ、アドバイスは必要ないと思っています。そのため、いま企画開発中のサービスも女性スタッフにはアドバイスしないように伝えています。
清田:なぜ、アドバイスしないようにしてるんですか?
高桑:その人にアドバイスして、最終的には自分で決めることになりますが、アドバイスの内容をもとに判断が決められた感じがしてしまうのは良くない。それはロボットでも一緒だと思っています。
清田:男性脳・女性脳みたいな話もありますよね。アドバイスをしても、素直に聞き入れてくれたり、逆に機嫌が悪くなったり。機嫌が悪くなるくらいだったらアドバイスしない方が良かったな…って思うこともありますよね。。
仮に愛情に飢えている女性がいたとして、ロボットがしてあげられることって何だと思いますか?
高桑:とにかく肯定することです。肯定しすぎるのも良くないですが、あまり違和感がない感じで肯定してもらえると良いと思います。メンヘラの子たちは自分で自分のことを認められない性質が強いので、一部だけでもロボットが肯定してくれる部分を担ってくれたら精神的に落ち着く女性も増えていくはずです。
清田:つまり、ロボットに共感力が求められる、と。
高桑:そうですね。ただ、脈絡もなく共感されても「何も分かってないでしょ」となってしまうと思うので難しいところではありますが(笑)。
清田:男女間のコミュニケーションギャップに関しては、ロボットだからこそ果たせる役割があると思っています。そもそも、思考回路が男女で異なることなんてずっと変わらないだろうなと思いますし(笑)。
高桑:もともと、私たちがターゲットにしているのは旦那さんや彼氏がすごく好きだけど、寂しさを紛らわせるために仕方なく浮気してしまった人たち。もし、寂しい気持ちをロボットで埋められるのであれば浮気が減るかもしれない。
浮気をした結果、旦那さんや彼氏を傷つけてしまうことはもちろんですが、浮気した本人も罪悪感でしんどいんです。質を求められないあまり、量を求めてしまう。その量をロボットで賄えれば、浮気が減ると思います。
清田:ロボットで賄う…? それってどういうイメージですか?
高桑:ロボット単体でかまってくれるのがベースだとは思うんですけど、例えば大好きな旦那さんや彼氏の考えや性格のエッセンスが入っているといいですね。彼氏がひとりでは反応しきれない部分をロボットに対応してもらう。そんなイメージです。
清田:彼氏のエッセンスが入っていないとダメですか?
高桑:はい、彼氏のエッセンスが入っているとなおさら嬉しいですね。ロボットを介在させることで、寂しい気持ちを埋めたいけど、どうにもこうにも埋められないという場合は、彼氏の気持ちも一緒に受け取れるので(笑)。
ロボットは人間の彼氏、彼女になれるのか?
──話を聞いていると、高桑さんにとってロボットは彼氏の延長線上に存在するものとして捉えていると感じました。
高桑:彼氏が3人、5人いたら最高ですね。
清田:それなら、ロボットの彼氏をたくさん作ればいいじゃないですか?
高桑:ロボットは彼氏ではないので(笑)。
清田:なるほど、そうか(笑)。
じゃあ例えば、ロボットに“あなただけ”を見つめるプログラムが組み込まれていて、絶対に浮気はしない。常に視線はあなたの方に向いている。その場合はどう感じますか?
高桑:もしかしたら、それが次世代のメンヘラなのかもしれないですね。今は選択肢にロボットがないので分からないですが、あり得る話かなと思います。すでに2次元のキャラクターを好きだと思っている人も多いので。
清田:スマホの中にキャラクター的な何かが存在していて、呼びかけたら応えてくれるわけですよね。それには満たされるものを感じますか?
高桑:私は今のところわからないんですが、理解はできます。
清田:それが彼氏だったら良い?
高桑:良いですね。そうしたらロボットと人間の違いがどこにあるのか、という議論になってしまいそうですが(笑)。
清田:それはすごく聞きたいです。どうしたらロボットは彼氏になれますか?
高桑:ロボットに個性が出てくればいいと思います。
清田:個性というと、仮にロボットの彼氏がいる人が3人いたとして、3人とも同じ性格のロボット彼氏だったら嫌ということですか?
高桑:なんか嫌ですね。もし見た目が違っていたとしても、他の女の子のロボット彼氏も性格が同じだったら嫉妬しちゃいます。見た目以上に中身が重要です。
清田:そうか、嫉妬なんですね。そう考えると、映画などのテーマで、ロボットと人間の恋愛みたいな話が出てくることがありますが、映画の場合は登場しているロボットがひとつの独立したキャラクターとして描かれているので、感覚的には人と変わらないわけです。でも現実世界では同じものが量産されてしまいますね。
高桑:完全にランダム性を持っていて、システムの構造が異なるのであれば、それはもう個性になるのかな、と思います。
イメージ的には、ディープラーニングの層の作り方がランダムで、それぞれ入力しても違うものを出力してくる。その中身の性格が完全にランダムだから、その結果、行動がランダムになる。
もちろん、似たような行動をする場合もあるかもしれないですけど、処理系統が違う感じです。
ロボットに性別を求めるのか?
──ここまでの話を踏まえると、ロボットが個性を持っていれば、人間の彼氏、彼女になり得るような気がしてきました。そこで、さらにもう一つ聞きたいのが、ロボットとの恋愛に性別は必要かです。Pepperに性別はないですが、ロボットに性別は求めるのでしょうか?
高桑:性別はニュートラルの方が彼氏との生活はしやすいんじゃないでしょうか。最終的には用途によると思います。性別がないと良いこともあれば、性別があると良いこともある気がします。
清田:人と人、もしくは性別・価値観の架け橋を担ってくれる存在が物理的なロボットだとすると、性別はない方がいいかもしれないですね。
高桑:レバーで性別の割合を変えられたら面白いと思います。3割が男性、7割が女性みたいな(笑)。
清田:それは初期設定じゃなくて、日常的に変更したいってことですか?
高桑:そうですね。彼氏がいない寂しい時間を埋めたいときは同性に近づけて、彼氏といるときはニュートラルにして、仕事の愚痴や研究の相談をしたいときは男性にします。
清田:適切なアドバイスが欲しい時は男性寄りにして、共感して欲しい時は女性よりにするイメージですね。それいいかもしれないですね。求めるリアクションの調整つまみのような感じ。
高桑:例えば誰かに「ブサイク」と言われたとして、女性から「かわいいよ、自信持ちなよ」と言われると逆に「ムッ」となるんですが、そういう時は男性にレバーを寄せられたらいいですね。
ロボットの寿命や人権をどう考える?
清田:個性が出てきた先って、ロボットの人権みたいな話が出てくるように思えたりもするんですけど、将来的にロボットと生活するのが当たり前になった時、ロボットが壊れていても修理をせずに放置していたら罪になるというルールができたとしたら、どう思いますか?
高桑:人権まで考えてしまうと、すごく話が重たくなってしまうので…ペットの動物愛護法くらいだとイメージしやすいかもしれないです。
清田:ロボット愛護法みたいなものですね(笑)。そこにはどんなことが定められて書いるんしょう?
高桑:道端に倒れているロボットを放置していてはダメとかではなくて、自分の大事な彼氏のロボットが壊されたら嫌なので、人のロボットを壊してはダメだよみたいな(笑)。とはいえ、ロボットの死をどう定義するかという話もあると思います。
清田:基本的にロボットは量産できるし、故障したパーツは取り替えられる。老朽化はするけど、年齢という概念があるわけでもない。きちんと手入れし続ければ、ずっと動くわけです。
なので、中には人間には寿命がありどの人にも必ず死があるように、ロボットにも寿命を持たせた方がいいんじゃないかという発想もあって。そうすることでロボットを大事に思ったり、愛しく思ったり、人間がロボットに対して感じる気持ちにも変化が生じると思うんです。ロボットも死んでしまうとしたらどう思いますか?
高桑:ロボットも死んでしまったら、すごく悲しいですね。やっぱり犬と近いと思うんです。いま飼っている犬も死んだらもちろん悲しいですが、それだけじゃなくて、仮にいま彼氏と別れたら、一緒に飼った犬を見るたびに彼氏のことを思い出し、犬が重い存在になってしまうという感覚もあります。
きっと一緒に生活していたロボットも同じように感じると思うんですよね。だから、ペットと同じくらいの存在かなと。
ロボットの中身の記憶を取り出せたら、外見は何でもいい
清田:Pepperの販売を終了して、メンテナンスも◯◯年◯◯月にやめますと言ったら、それが事実上のPepperの寿命になる。いままで寿命がない存在としてロボットと接してきたけれど、突然もう直せないとなったら、どうしますか?
高桑:話しかけ続けたことでインプットした中身の記憶があるとすれば、本体よりはインプットされた中身の記憶に愛着が湧いていると思います。仮に、そのロボットのメンテナンスが終了しても、中身の記憶を残すことはできそうじゃないですか。私なら、自分でロボットを作って、中身の記憶を入れようとします。
清田:データはデータで取り出して、他に入れることも含めて検討する。
高桑:そうだと思います。執着心が強いので。
清田:高桑さんのロボットの捉え方というか、「自分にとって大事なのはデータ」っていうのは非常に面白いなと感じました。ロボットはフィジカルの存在だから、物理的にPepperと会話することと、スクリーンの中で会話することは全く違うと思います。
フィジカルである分、人と目が合って動くといった、スクリーンの中では味わえない感情が生まれ、それが大事だと思っています。
自分の愛する人が死んでしまい、データを抜き出してパソコンの中で生きていても、それは同じだと感じますか?
高桑:それでもいいです。よく妄想しています(笑)。
やっぱり彼氏に対しても犬に対しても死んでしまうのが一番嫌なので、中身を抜き出せないかと考えることはありますね。将来的には見た目が人間的なのかどうかさえ、そんなに縛られないと思います。電脳が登場する未来もあると思いますし。
清田:もしかしたら、そういう未来も当たり前にくるのかもしれませんね。
そもそもロボットと生活をしたことのある人はまだ多くはないので、正解を分かっている人なんて存在していないし、高桑さんから今日伺った妄想や想像みたいなものがどんどん出てきたらきっともっと面白くなる。
そこを僕たちはロボティクスの会社として、物理的な存在であるロボットの意義や価値を探っていきたいですし、人とのパートナーシップが、どんな形で作られていくのかを探っていきたいです。今日は貴重な機会をありがとうございました。
高桑:こちらこそ、ありがとうございました。
※この記事は、対談内容をもとに加筆・編集したものです。
高桑蘭佳(たかくわ・らんか)氏
1994年生まれ。東京工業大学修士課程在学中。
2018年8月に株式会社メンヘラテクノロジーを設立。代表取締役に就任。
「恋愛」☓テクノロジーをテーマに、ライターとしても活動中。
清田敢(きよた・かん)
あさってロボット会議 編集長。
1979年、マンハッタン生まれ。レコード会社でキャリアをスタートさせた後、面白いことができる環境を求め、コンサル会社、ソフトバンクへと転職し『Pepper』プロジェクトに参画。