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考え、議論するフォーラム / コラム

金田正一の球速200キロをロボが投げてみた

 私たちあさロボ編集部は、世界中のロボットを取材し、その“こだわり”を発信していきます。今回は、野球少年なら一度はお世話になったピッチングマシンです。こだわったという球速を、昨年亡くなった“不世出の400勝投手”金田正一氏のお話をもとに解説していきます。

 生前、金田氏は某雑誌のインタビューで、自分の球速を「200km位かな」と語っておりました。私も元野球少年として、200kmの剛速球を打ってみたいと思うのですが、現役投手の最高球速はニューヨーク・ヤンキースに所属するチャップマンの169.14キロ。彼では金田氏にはまだ遠く及ばないようです。どうやら200kmは現代の人間では出せない球速なようで、ここはテクノロジーの力を使って何とかならないものかと考えました。

 「そうだ、ロボットがいるじゃないか。バッティングセンターのピッチングマシンはまさに『投げるロボット』。そんなロボットに金田さんの幻の200kmを再現してもらおう」

 そこで、福岡県北九州市にある「三萩野バッティングセンター」を訪問。ここではなんと200kmを超える剛速球を投げるピッチングロボットがいるとのこと。その球に向き合うことで、金田氏の偉大さを身をもって感じてみることにしました。

球速210キロを体感

 こちらが球速200km超を体感できる、北九州市小倉北区にある「三萩野バッティングセンター」。1978年(昭和53年)に営業を開始した地元では古くから親しまれているバッティングセンターです。

 はじめは「ム…こんなところに幻の豪速球が存在するだと!?」と思ったのですが、もともと球速180kmから始まった高速ピッチングマシンは、その後改良を重ね、現在は最高球速が240kmに達するほどになったとのことでした(驚!)。

 球速は曜日で変わるそうで、取材した日は球速210kmの日でした。金田氏の“200km”より10kmも上回っていました。

 「金田氏は自分の球速を180kmと言っていたが、その後200キロに変えた。もしもご存命だったら、来年には210kmと言っていただろう。そんな金田氏の球を打ってみたい」と考えた私。 当然、金田氏が実際に投げたと語る球速200kmを上回る、球速210kmを体感することにしました。

 写真でさえ、この程度しか捉えられない210kmの剛速球、果たして打てるのか、いやバットに当たるのでしょうか。

 危険防止のため、ヘルメットをかぶり打席に入ります。

 1ゲームあたり15球・250円です。
 50~60球も打てば1球くらいは当たるだろう、と考えた私は4ゲーム分のメダルを購入。
 210kmのボールを打席で待ちます。

 私の前に打っていた人を打席後ろの通路から見ていたのですが、打席の外で見るのと打席に立って見るのでは全然違います。
 「速っっ!」以外の感想が思い浮かびません。
 ボールがマシンのアームから離れた瞬間に体の前をボールが通過している、そんな感覚です。

 1ゲーム目、全てバットに当たらず。
 2ゲーム目、全てバットに当たらず……

 マシンのコントロールが良いため、ボールが来る位置はだいたい分かっているのですが、それでもバットに当たりません。
 それどころかバットを振ることさえできない始末。
 「手も足も出ない」とはまさにこのことだと感じました。

 結局、全60球中バットにかすったのは1回だけ。
 残りは空振りが半分、そして手が出なかったのが半分です。

金田正一はやはり偉大だった

 金田氏は剛速球とカーブをメインに、挙げた勝利は不滅の400勝。そして敗戦も歴代1位の298敗。投手の分業制が進んでいる現代では、まず破ることのできない大記録です。
 そして奪った三振はなんと4490個。当然、この記録も歴代1位です。

 今回、金田氏の“200キロ”を上回る剛速球に向き合いながら、「現役時代のカネやんの球も“手も足も出ない”剛速球だったんだろうなあ」としみじみ思いました。
オーナーはなぜこんなに速い球を追い求めたのか。
 最速240キロを誇る「三萩野バッティングセンター」。オープンして40年を超え、親子3代で利用しているというお客様もいるとのことです。
 なぜこのような剛速球を追い求めたのか、オーナーの末松一英さんに話を伺いました。

--早速ですが、なぜこんなに速い球のピッチングマシンを置こうと思ったのでしょうか?

 最初は180キロから始まったのですが、180キロくらいの球速だと打てる人も多いんです。そのうちに、常連さんから「もっと速い球を打ちたい!」という要望が出てきました。それに応じて球速を上げていくうちに、現在の240キロに。この240キロという球速は、うちのバッティングセンターの技術の象徴であると思っています。

--先ほど、ピッチングマシンを拝見させていただきましたが、やはり200キロ以上のボールを投げるということで、マシンへの負荷も大きいのではないかと思いましたが……

 マシンのフレームは、使い始めて20年以上が経ちました。モーターやアームは、速い球速に耐えられるよう特注のものを使っています。メンテナンスを怠るとコントロールが悪くなってしまいますので、メンテナンスは欠かさずに行っています。3球に1回、6球に1回という頻度で行うこともありますね。

 ピッチングマシンは、ジェットコースターと同じで日々の点検が大切であると考えています。お客さんに安心して利用してもらえるよう、何万回に1回などの不具合も起こることのないよう、日々メンテナンスを行っています。

--今後もさらに球速のアップを追い求めるんですか?

 当分は現在の240キロのままでいく予定です。理由は二つあります。
 先ずは、球速が240キロを超えるとコントロールが安定しないこと。ボールを真ん中に集めるのが難しいんです。お客さんに不安感を持たせたら、この商売は成り立ちませんので、コントロールをしっかりと安定させる必要があります。

 もう一つはお客さんとの関係性です。現在、240キロの球でホームランを打った人は4人です。今の段階で最高球速を上げると、まだホームランを打っていない人を取り残すことになってしまいます。前回、230キロから240キロに最高球速を上げたときは、10人以上が230キロのボールでホームランを打っていました。240キロで10人以上がホームランを打ったら、球速アップを検討したいと思っています。

--今後、新たなサービスを提供する予定はありますか?

 カーブマシンを開発しているところです。従来のようなローター式ではなく、アーム式にする予定です。カーブは人間が投げてもどこにいくか分かりませんので、ピッチングマシンでコントロールを安定させるのはかなり難しいです。アーム式ですと尚のことです。

 しかし、私はローター式よりもアーム式のほうが実戦的なカーブを投げられると思っています。カーブマシンが実現したらカーブ打ちを効率的に行うことができ、みんなが苦もなくカーブが打てるようになるでしょう。

--ところで、先日亡くなった金田正一さんが現役時代の自らの球速を200キロと語っていますが……

 金田さんが実際に200キロのボールを投げていたかは分かりませんが、速球と、落差の大きいカーブとのコンビネーションでボールを速く見せていたのではないでしょうか。もし直球とカーブの球速差が50キロあったとしたら、直球はかなり速く見えると思います。

 ただ、今後は人間が200キロを投げるというのも夢ではないのではないでしょうか。
その場合、上半身だけ鍛えるといったものでなくバランスよく鍛えないと実現は難しいと思っています。

 ピッチングマシンも同じです。球速を10キロ上げようと思ったら、モーターだけ変えてもダメなんです。アームや土台とのバランスを考えなければ、球速はアップしたとしてもコントロールが安定しません。

 真剣なお客さんたちのために、私たちも日々試行錯誤しています。今後も、お客さんに楽しんでもらえるよう、研究開発を進めていきたいと考えています。

最後に

 「1球くらいは当たるだろう」と考えていた210kmの球を、一度もバットで捉えることができませんでした。
 ただ一度偶然かすっただけという結果に終わり、改めて400勝投手である金田氏の偉大さを実感(なのか?)。氏の剛速球を一度この目で見てみたかったです。

 そして、240kmという剛速球を提供する三萩野バッティングセンター。
ただ単にボールの速さを追い求めているのではなく、常連さんとの関係性なども考えた上で最高球速を上げているという話がとても印象的でした。

 言い換えると、三萩野バッティングセンターのピッチングマシンは、常連さんとともに成長してきたといえるでしょう。

 テクノロジーと人間との関係性として、とても理想的なものかもしれません。

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