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考え、議論するフォーラム / コラム

寝たきりでも働けた!分身ロボットカフェ

 2019年10月、東京・大手町の3×3 Lab Futureにて「分身ロボットカフェDAWN ver.β 2.0」が開催されました。分身ロボットカフェは前年に続き、2回目の開催。クラウドファンディングで開催資金を集めたところ、1,040万5,500円が集まりました。

 カフェでは、分身ロボット「OriHime」や120cmの自走式の「OriHime-D」が接客を行います。ロボットを通じて客とコミュニケーションを取る「パイロット」は、ALSなどの重度障がいを持つ方や様々な事情で外出が困難な人たちだ。カメラ・マイク・スピーカーが搭載されているロボットを、自分の体の動く部分を使って全国から操作をします。

 この分身ロボットカフェを企画・開催しているのは、株式会社オリィ研究所の吉藤オリィ氏です。今回は、カフェ開催の狙いとオリィさんの目指す未来について聞いてみました。

――「分身ロボットカフェDAWN ver.β 2.0」開催の意図を教えてください。

 私の人生をかけたミッションは、「孤独の解消」です。私は幼少期から病弱で、小学5年生から3年半不登校でひきこもり、孤独による苦しさを経験しました。その時の思いから、何らかの理由で社会や人と繋がれない人の孤独の解消を目的にするデバイスを作ろうと考えるようになったんです。つまり、私にとってロボットを作ることが目的ではなく、孤独を解消するという目的のために選択した手段がロボットだったんです。

 孤独とはつまり、「自分が誰からも必要とされていないと感じ、辛さや苦しさに苛まれる状況」のことです。私はこの孤独をテクノロジーの力で解消したいと思っています。
 
 孤独の解消の障壁となるのは、「移動の障がい」「対話の障がい」「役割の障がい」です。この3つの障がいを乗り越えるアイデアのひとつが、分身ロボットカフェです。

――3つの障がいをどう解消していますか。

 まず、「移動の障がい」について、重度障がいを持つ方など外出困難な方々が家にいながらにして遠隔で、分身ロボットOriHimeを操作できるようにしています。もうひとつの身体を持つことで、移動の壁をクリアすることができます。

 「対話の障がい」は、意思疎通を行えるようにすることで解決します。身体的な理由で会話ができない、あるいは、ひとつめで紹介した「移動の障がい」によって話したい人に会いに行けないような状態が続けば孤独は深まります。ALSなどで言葉を発せなくなった方のために、透明文字盤を使って視線やスイッチで文字入力をすることで、OriHimeを通して日常会話ができるようになりました。

 そして、「役割の障がい」について、人は誰かの役に立っていると実感をすることで、生きる意味を見出します。拙著『サイボーグ時代』(きずな出版)でも書きましたが、「ありがとうは負債」になります。寝たきりの状態ですと、多くの人の手を借りて生活をすることになります。何かをしてもらう度に、「ありがとう」という生活。そのうちに「(何もできなくて)すいません」となっていく。「ありがとう」は、“お互い様”の関係性があってこそ、気持ちよく言い合えるものなのです。

 「役割の障がい」をどう解消するか。そう考えたとき、OriHimeは会話をベースとした知的労働は可能だけれど、自走できないので肉体的な労働ができないということに気づいたのです。そこで、120cmの自走式の「OriHime-D」を開発し、誰もが自分のもうひとつの体を使い、身体的社会参加を行えるようにしました。

――分身ロボットカフェの着想はどこから得たのですか。

 私の親友であり秘書をしてくれていた番田雄太の一言がきっかけです。2人でOriHimeを通して会話をしていたある時、「番田くんにコーヒーを淹れてほしいな」と私が呟いたら、「じゃあ、それをできる身体を作ってよ」と言われたんです。

 番田は、4歳の時に交通事故で頸椎損傷となり、それから28歳までの生涯の大半を病院で過ごしました。遠隔で私のスケジュール管理をし、OriHimeで一緒に講演をして回りました。

 2017年に彼の容体が急変するまでは、一緒にOriHime-Dの開発を進めました。番田の希望でもあった自走できるOriHime-Dにより、外出困難者の方の働く可能性は広がったと思います。

――2年間にわたり分身ロボットカフェを実施し、どのような手応えがありましたか。

 第1回の分身ロボットカフェは、10人のOriHimeパイロットでスタートしました。それが今年は、30人のパイロットと運営することができました。とはいえ、パイロット希望者を募ったところ100人以上が集まったので、泣く泣く30人に絞らせていただいたという状況です。働きたいのに働くことができていない人は、まだまだたくさんいるのです。

 前回は、OriHime-Dがドリンクを運んで接客もしていましたが、今回は各テーブルに通常盤のOriHimeを配置して注文を受けて会話をし、お越しいただいた方にカフェの空間を楽しんでもらえるように工夫しました。

 そして、重視したのは健常者のサポートから離れ、OriHimeたちでカフェを運営していけるようになることです。そのため、挨拶も私からは最小限にして、OriHime-Dのパイロットに任せていきました。

 2年間の実証実験により、寝たきりの方でも接客ができ、人と繋がり合うことができることを確信することができました。また、一緒に働く仲間同士の交流ができたのも素晴らしい副産物となりました。

――今後、どのような構想を抱いていますか。

 カフェの期間中、毎日が濃厚な失敗と成功、気づきの連続でした。2年間に続く公開実証実験を経て、今年は分身カフェの常設店を設けたいと考えています。寝たきりになった後も楽しく仲間たちと働ける未来をつくるために、私は開発を続けていきます。

 寝たきりになった先の未来。もうひとつの自分の身体で働くことが一般化すれば、老いる恐怖を減らしていくことができます。自分の身体を自分で介護をする未来も遠くないかもしれません。テクノロジーの力で、人間はいつまでも自立的に、人と繋がりながら暮らすことができるようになります。

 身体障がい・高齢・育児などの理由で、外出する際に何らかの困難を伴い移動を制約される方は約3,400万人いると言われています。これからの時代の新たな「社会参加」を、OriHimeで実現していきます。

吉藤オリィ(よしふじ・おりぃ)氏

本名、吉藤健太朗
1987年、奈良県生まれ。株式会社オリィ研究所代表取締役所長。
工業高校にて電動車椅子の新機構の開発を行い、国内の科学技術フェアJSECにて文部科学大臣賞、ならびに世界最大の科学大会ISEFにてGrand Award 3rdを受賞。その後、高専で人工知能の研究を行い、早稲田大学創造理工学部へ進学。在学中に分身ロボットOriHimeを開発し、オリィ研究所を設立。米Forbesが選ぶアジアを代表する青年30名「30 under 30 2016」に選ばれる。

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