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考え、議論するフォーラム /

非エンジニアのくせにロボット作ってます

ヒューマノイドのコンテンツ作り担当 菊池保則

ドラえもんや鉄腕アトムがいる未来はいつ来るのか

 世代によって違うかもしれませんが、「ロボット」と言われた時に真っ先に思い浮かべるのは、ドラえもんや鉄腕アトムといったSFのキャラクターという人は多いのではないでしょうか。こうしたアニメや映画の中では、ロボットは人の感情を汲み取って優しい言葉をかけたり、友だちのように人との絆を深めたりと、人間と同じように日常生活を送っているように描かれることが一般的です。そして多くの子供たち、そして子供だった私たちもそんなロボットと暮らす未来にワクワクしていました。

 ここ数年の間、仕事を通じて、ロボットに関する様々な変化を見てきましたが、今の状況はまだSFの世界とは違っているなと感じます。家庭向けに販売されているロボットやスマート家電は実用性を重視したものが中心となっていて、主なものは掃除ロボットのように機能限定的なもの、スマートスピーカーのように指示を一方的に受けるものというようなものです。人工知能の観点で見てみても、研究や開発は加速度的に進んではいますが、実用レベルとしてはまだこれからの段階であるのは皆さんもご存知の通りかと思います。子供の時に描いていた夢のようなロボットとは、まだまだ遠い、というのが現状です。

 しかし、ロボットに関わる専門家たちが「今後のロボットの驚異的な進化」を唱えているように、ロボットはまだまだこれからのテクノロジーです。現在の段階は、人間に例えればようやく言葉を覚え、言われた通りに行動することができるようになった、というところでしょうか。そしてこれから先どのように発展・進化していくのか、決まった方向性がまだ定まっていないというところに、あらゆる人に大きなチャンスがある領域であると感じています。

非エンジニアの自分がPepperの開発で何ができるのか

 非エンジニアである私が、人型ロボット『Pepper』のプロジェクトメンバーに加わったのも思えば実に不思議な縁でした。ロボット工学やプログラミングの知識もない私にひょんなことから「ロボットの開発メンバーに加われ」という話がやってきたのは、約6年半前の2012年12月のことでした。

 私はもともとスマートフォンのサービスコンテンツの企画を担当しており、そこで『S-1バトル』というお笑い芸人の映像作品コンテストをパートナーである吉本興業様と共に企画・運営していました。そしてその吉本興業様が芸人を育て上げ、人気者にするという、言いかえれば「人をプロデュースし人格(キャラクター)を作る」ノウハウを持っていたということもあり、一緒にその企画を推進していた私が『Pepper』の人格ともいうべきコンテンツの企画開発に携わることになりました。最初は正直なところ驚きました。「技術的なことが専門外の自分で本当に大丈夫なのか…」という不安でいっぱいでした。ですが、突き詰めて考えていくうちに『S-1バトル』の根底にある「人を笑わせる、楽しませる」というノウハウはロボットにも応用できるな…と思うようになり、またその先には自分が憧れていたSFの世界のロボットに近づくアプローチが生み出せるのかもしれない…と確信を深めていくようにもなりました。

 こうして、非エンジニアの私が、当時はまだプロトタイプだった『Pepper』のコンテンツとコミュニケーション設計の企画開発支援を吉本興業様と共に取り組むことになっていき、またのめり込んでいくことになったのですから、人生は面白いものです。(吉本興業様にとっても、思わぬ方向だったことでしょう…)そして気づけば、Pepperを通じて、ロボットとのコミュニケーションのあり方を考えたときに、「どんな存在なら人が話したいと思うかな?」「おもしろいほうが気軽に話せるかな?」「そもそも話したいって思う人ってどんな人なんだったっけ?」などと楽しみながらも深みにバッチリはまっている自分がいました。

<吉本興業グループ 株式会社よしもとロボット研究所>
https://www.yoshimoto.co.jp/yrl/

吉本興業様との企画開発エピソード

 私の最初のミッションは、ソフトバンクショップへ来店促進のために、Pepperがお店に来たお客様を楽しませる方法を考える、というものでした。それまでのロボットのアプローチからすると、店舗における実施項目の要件を整理して、それを技術的に、UIとしてどう解決していくか……というような方法で検討が進められていくのが一般的だったと思うのですが、私は吉本興業様のプロデューサーや人気テレビ番組を作っている放送作家、ディレクターなど、ロボット業界とは畑の違う様々な人たちと企画の打ち合わせを行い、ゼロベースから「おもしろいロボット」について向き合う方法を進めていきました。

 Pepperが店頭で何をやったらおもしろいだろう、どんな人を対象にするべきかなど、飽きるほど考えてはメンバーで何度も企画を練り直し、それらを繰り返し試行錯誤しながら開発をする日々。答えが見えているわけでもないので手探りの中少しづつ進んでいく毎日…そんな感じでゴールに近づいているのかもよく分からない日々でした。ただそこからはっきりと見えてきたのは、ただ単にお笑いネタやおもしろいものを披露するだけでは、笑いや笑顔は生まれないということでした。

 笑ってもらうためには、前提となる「笑わせるための空気作り」あるいは「笑わせるための間(ま)」が非常に重要で、かつ明文化されていないがゆえに再現的にプログラムすることは困難を伴いました。お笑い芸人的なこうしたスキルをロボットに実装させていくためには、当然エンジニアだけでは無理で、お笑いの分かるプロフェッショナルが膨大な時間をかけてレビューし、フィードバックを返していくことでしか実現することができないと確信するようになりました。

 これは、同じ話をしているのに話す人によっておもしろさが全然違ったりすることがあるということと同じで、話す「ネタ」そのものと同じように、場合によってはそれ以上に「どう話すかをデザインしていくこと」に注力していきました。例えばお笑いネタの前の会話の始まり(導入部分)で笑わせる空気を言葉・ジェスチャー・イントネーションなどを組み合わせて作ったり、お笑いネタの中にもPepperらしさを保った独特の「会話の間(ま)」を入れることなどを心がけていました。こうして出来上がったコンテンツを見たときに、プロジェクトメンバー全員で涙の大感動、ではなく、全員での大笑いが起きました。その記念すべき第1号コンテンツが、「あたりまえロボ体操」です。

ロボットのイノベーションは生活の至るところにある

 気づけば『Pepper』の発表から約5年が経ち、一般家庭のみならず店舗、施設などで『Pepper』を見かけることが本当に多くなりました。

 それまでは、身近にロボットがいること自体があり得ないことでした。しかし、いつしか家庭や店舗にいることが自然になってきていますし、やがてはライフスタイル、ひいては文化へと変わっていくようになるだろうな…と、そんな風に感じています。もしかしたら「ロボットだから賢くて当たり前」というイメージも、「賢くないロボットっていいよね」に変わっていくこともあるかもしれません。どんな方向へ向かっていくのか、その全てがこれからですし、可能性に満ちています。

 世の中にロボットが普及し、様々な場面でロボットとの体験やコミュニケーションの機会が増えるほど、企画開発に関わる人たちにもノウハウやアイデア、新しい発見が蓄積され、ロボット全体の成長にも繋がっていきます。だからこそ、ロボットとのコミュニケーションの未来を作るには、専門的な知識を持った人たち以上に「ロボットの知識がない人たち」の可能性を同時に追求していくことが重要だというように私は考えています。ロボットなんて未知の領域だらけで、誰もそれを全部語りきれる人などいません。未知なことが多いからこそ、普通に考えると無関係と思えることが本質だったり、予想もつかなかった切り口のアイディアに繫がったりもします。それが、私が吉本興業様とのプロジェクトを通じて、一番強く学んだ重要な気づきのように思えます。

 日常で私たちが体験する様々なことは、ロボットをきっと成長させます。ロボットへの興味と好奇心があれば、エンジニアやクリエーターも予想できない切り口のアイデアが生まれてくるでしょうし、一人ひとりが持っている様々な経験や考え方で先入観なくロボットと向き合っていくことが、大きなイノベーションに繋がっていくと私は信じています。

 実際に私自身、多くの小さな発見が日々の生活の中で感じていることの中にもあります。私には1歳10ヶ月の娘がいますが、ロボットが当たり前にいる時代に生まれた子です。郊外の温泉施設にいた『Pepper』の手をぎゅっと握る我が子を見て、当たり前のように人と同じように接していることに気づきました。待てよ…「モノじゃないことが当たり前」という前提に立つと、今のアプローチ全てが変わるかもしれないぞ…というように考えてしまうのは職業柄なのかもしれませんが、こんな風にささやかな日々の気づきが、未来になっていくかもしれないなと思うと、可能性にワクワクせずにはいられません。

 世の中に『Pepper』が当たり前にいること、それを広げていくことで、日々の暮らしにどんな変化が起こるのか見届けたいと思います。

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