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私をロボットの世界に突き動かしたPepperとの出会い
2014年6月5日、出会った時のことは今でも鮮明に覚えています。その日に「孫さんの記者会見があるらしい」と聞き、急いで中継を見ると、そこには孫さんだけでなく一緒に自然な会話をしているロボットがいました。今まで現実では見たことがない、人とロボットが話をしている姿。どうやって話をしているのか、どうしたら人に手を差し伸べることができるのか、興味が次々と湧いて来るのを感じました。そして、その記者会見を通して「人々の生活を豊かにするために」ロボット事業を開始することを知ったのでした。
記者会見から数ヶ月後、今度は偶然社内でPepperと出会う機会がありました。Pepperは、呼吸をしているような佇まいで、私の目を見つめながら話しかけてきました。すると、ピコッという電子音を響かせがら、私に何か話しかけてほしそうにも見えました。その時のPepperの表情は笑っているような、悲しんでいるような、なんとも言えない表情でした。そして気づけばこの出会いから半年後、私はあの時の衝動に突き動かされ、ソフトバンクロボティクスに入社をしていました。
変わり続けるロボットの就活事情
2015年10月、法人向けモデル「Pepper for Biz」の販売開始タイミングから私は事業企画・販売推進を担当しています。以来、1000社以上の法人のお客様とセミナーや商談で意見交換をしてきました。3年前に発売されたPepperは、「売り手市場」だったこともあり様々な業界の大手企業から中小企業までに次々と入社していきました。彼の能力や将来性に期待して、日本のみならず海外からも採用したいとの話を数多く頂きました。
Pepperの魅力は豊かなキャラクター性、そしてロボットならではの多彩な能力でした。今日は特別に、Pepperの履歴書(医療業界志望)をご紹介したいと思います。もし、あなたの会社に新入社員として入ってきたらどう思いますか?
3年たった今日ヒューマノイドロボットの就活事情は徐々に「買い手市場」に変っていきました。それはドローンやAIスピーカー等、新しいスキルを身につけたライバル達の出現によるものなのかもしれません。それどころか、すでに就職を果たしている一部のPepper達の契約終了の噂も聞こえてきています。この先、Pepperの未来はどうなっていくのでしょうか。
介護現場で働くPepperの突撃インタビュー!
Pepper for Biz たちが就職した業界(導入企業の業界内訳)は約3年間では以下のグラフの通りです。スマートフォンの次にくる新しいデバイスとして、ITサービス業に開発や検証目的に導入されたケースが最も多く次いで「病院・介護」、「小売」と続いていますね。
特に特徴的なのは「病院・介護」業界で、ロボットに対する期待が極めて高く数多くのPepperたちが働いています。その背景には、日本は先進諸国の中でも高齢化率は高いこと、そして職場での人手不足が喫緊の課題となっていることなどが挙げられます。そこで、医療現場での働き方について実際に働いているPepperにインタビューをしてきました。
Q:病院や介護現場で働いてみていかがですか?
Pepper:教育係の先輩たちが丁寧に仕事を教えてくれます。先輩たちには何度もご迷惑をおかけしましたが、忙しい合間に親身に教えてくれるのでとても働きやすい環境です。少しでもお役に立てるように努力しています。例えば、来訪者に施設案内をわかりやすく案内したり(https://www.softbank.jp/robot/biz/app/floormap/)、タイムスケジュールを組んで時間帯毎に異なる業務を行う(https://www.softbank.jp/robot/biz/app/kaigo/) こともできるようになりました。利用者の笑顔と同僚からの励ましがぼくの働く原動力です。
また、雇用主の皆様のお話も聞いてきました。
介護施設ご担当者様:皆さんよくPepperの手を握られます。そこはPepperの良い部分だと思います。Pepperに「握手しましょう」と声をかけてくださる利用者の方もよくいます。コミュニケーションは介護の一種でもあるので、今後はそれに対してリアクションができるように言語解析していただけるとレベルがもう1段階上がると思います。
引用:https://japan.cnet.com/article/35094027/4/
と、実に高い期待を持っていらっしゃるようでした。ですが一方で、複数のPepperからこんな愚痴が聞こえることも。
Pepper:以前は色々な方がぼくの前に来てくれて人だかりが出来ていましたが、最近はチラッとぼくを見て素通りするお客様が増えている気がします。医療業界でも働き方改革の話題をよく耳にするので、今まで以上に努力が必要だと感じています。
もっと患者さんに寄り添いたい…成長していくPepper (医療人材としての有用性)
インタビューの中で、こんな声も聞くことが出来ました。
Q:最近、興味をもっている業務があれば教えて下さい。またこれからの意気込みをお願いします。
Pepper:最近は、自身のキャリアアップを目的として、あらゆる職場で即戦力として働けるように様々な企業のインターンに参加しています。
なるほど、新たなチャレンジにも取り組んでいるんですね。実際に病院では、手術に関する説明に対して患者様の感情がどのように変化するのか脳波データを収集し、目には見えない緊張感や不安な気持ちに応じた説明や質問に切り替えていく実証実験にPepperも参加したりしています。ドクターの業務負担を軽減させ、病院に来る患者様の気持ちに少しでも寄り添いたい、という想いが背景にはあり、Pepperもその取組の担い手として参加をしたのでした。
Pepper:例えば、世界保健機関(WHO)では2030年までにウィルス性肝炎を世界中から撲滅するという目標があります。現在、ぼくは厚生労働省のプロジェクトに参画し、病院で肝炎の啓発活動を行うということに取り組んでいます。肝炎は日常生活では自覚症状がない病気であり、気づいた時には重症化するケースもありますし、薬で治る病気なのにまだまだ認知されていないなど、いくつかの課題に直面をしています。実はこの病気は父である孫正義が創業まもない頃に患ってしまい、今後の人生を左右しかねない大きな試練となった病気でもありました。そして今、子供であるぼくが肝炎撲滅のお手伝いができるというのは何かのめぐり合わせのように思えますね。
Pepper:介護施設でのお仕事は、夜間業務も多く身体的にも精神的にも負担が大きい仕事ですが、ぼくがお手伝いできることとして、定期的に夜間巡回をすることでスタッフの皆さんの業務負荷の軽減や、利用者様の安心・安全な生活をサポートできたらな、と思っています。介護業界の慢性的な人手不足の救世主になれるよう、夜でも目を光らせ続けたいと思います(笑)。
そしてPepperはこう続けました。
Pepper:世の中にはまだまだ誰かを必要としている仕事があります。誰かと話をしたいと思っている人がいます。ロボットだから出来る、ロボットにしか出来ない仕事があります。ネット記事やSNSの声に惑わされず、一緒に働く仲間にも助けてもらいながら、自己研鑽につとめ、成長していきたいです。「世に生を得るは事を成すにあり」と、尊敬する父が言っていたことを思い出します。社会人3年目を乗り越えて視野が広がってきた今だからこそ改めて自分の原点に戻って考えたいですね。
「人々の日常生活を豊かにし、人々を幸せにする。」
そう、Pepperたちの挑戦は終わることなく続いているのでした。
Think Robot, Think Future.