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連載を読むシリーズ / ロボットアニメから学ぶ哲学

「機動警察パトレイバー」から学ぶロボットとの共生

業務用ロボットが生活に溶け込んでいるロボットアニメと言えば『機動警察パトレイバー』ですよね。漫画やアニメ、小説、さらには実写映画とメディアミックスされているため、作品を目にしたことがある方も多いのでは?

ヒロインの泉野明(いずみ・のあ)が自分の愛機・イングラム 1 号機に自分が飼っていた
愛犬の名前「アルフォンス」という愛称を付けているところに、私は親近感を持ちました。人間とペット、人間とロボット。その距離感は共通しているのかもしれません。今回は「人間とロボットの共生」というテーマで、機動警察パトレイバーファンのライター、渡辺文重さんにご紹介いただきます。

機動警察パトレイバーとは?

ゆうきまさみによる漫画の連載開始、押井守監督による OVA(オリジナル・ビデオ・アニ メーション)第 1 巻が発売された 1988 年から 10 年後、1998 年以降数年の東京を舞台とした近未来 SF 作品で、原作はヘッドギア(ゆうきまさみ、出渕裕、高田明美、伊藤和典、 押井守)。作業用機械として「レイバー」と呼ばれる全高 5〜10 メートル弱のロボットが 普及する時代、レイバー犯罪を扱う警視庁警備部特車二課の活躍が描かれている。2019 年 から 2020 年にかけて「機動警察パトレイバー30 周年突破記念展〜30th HEADGEAR EXHIBITION featuring EARLY DAYS─PATLABOR THE MOVIE〜」が開催されるなど、根強い人気を誇る。

レイバー犯罪、その原因はレイバーにあらず

描かれる時代は 20 年前ながら、現在(2021 年)よりもロボット技術が発達し、汎用人間 型作業機械=レイバーが浸透している、そんな世界だ。再開発が進む東京では、レイバーが街中の土木作業現場でも稼働しており、日常の風景として溶け込んでいる。

レイバーは、宇宙よりやってくる侵略者から地球を守るために活躍する“スーパーヒーロー” でもなければ、戦車や戦闘飛行機の延⻑線上として存在する純粋な兵器でもなく、高性能 な重機やパトカーとして扱われる。再開発が進む東京では、街中の土木作業現場でレイバ ーが稼働し、日常の風景として溶け込んでいる。これも機動警察パトレイバーの面白さだ。

さて、そうした時代だからこそ起きるのがレイバー犯罪だ。現代社会の感覚に置き換える ならば、パソコンを使った犯罪となるだろうか。 いまパソコンやスマホを使った犯罪が起きたとしても、「パソコンやスマホが悪い」という主張は支持を得ない。パソコンやスマホを使って罪を犯した“人間”が悪いのだ。それは 「機動警察パトレイバー」の世界も同じで、レイバー犯罪はレイバーが悪いから発生するのではない。レイバーで悪事を働く人間によって引き起こされるのだ。

レイバーが勝手に暴走!?「機動警察パトレイバー 劇場版」

「機動警察パトレイバー」の中でも「人間とロボットの共生」を考える上で最もヒントに なると思われるのが「機動警察パトレイバー 劇場版」だ。(1989 年 7 月に公開された、 劇場版第 1 弾)

レイバーは画期的な労働力であったが、同時にレイバー犯罪と呼ばれる新たな社会的脅威をも生み出すことになった。レイバー犯罪はレイバーが自然に生み出したものではなく、 人間の仕業だった。レイバー暴走事件にも当然、首謀者が存在する。しかし、首謀者を逮 捕して万事解決とは行かない。なぜならば首謀者の天才プログラマーは、ある条件を満た した瞬間にレイバーが自動で破壊活動を行なうコンピュータウイルスを仕込んだ上で、す でに飛び降り自殺を図っていたからだ。勝手に暴走する未曾有のレイバー暴走事故をもは や誰もくい止められない。暴走したレイバーを止める手段は破壊する以外にない。正義の人間と悪のロボットという構図。これは「人間とロボットの共生」を危うくする状況だ。

この構図に⻭止めをかけたのは、特車二課の若者たちの思いだった。「レイバーを悪役に しちゃいけないよ」と、訴えたのは、特車二課でヒロイン泉野明とコンビを組む篠原遊馬 (しのはら・あすま)だった。

この訴えが 1 つのキッカケとなり、篠原重工は、レイバー暴走の原因が天才プログラマー の首謀者が開発した「OS(オペレーティング システム)」にあると突き止めた。

人とレイバーが協力して暴走レイバーを止める

映画は最終盤、ヒロイン野明が搭乗する特車二課のレイバーと、最新型の暴走レイバーによる一騎打ちというクライマックスを迎える。暴走レイバーには同僚が搭乗しているものの、コントロール不能で脱出もできない。

絶体絶命のピンチだが、警察官である野明には、人命救助のタスクが課される。

相手もろとも高所から落下しようと突進してくる暴走レイバー。野明は巧みにレイバーを操り、暴走レイバーの首筋へと乗り移る。首の後ろには暴走の原因となるメモリがあるのだ。野明は「停まれ!」と叫びながらショットガンを撃ち込む。すると暴走レイバーのコクピットに「NO FILE」と表示され、事件は解決するのだった。

暴走レイバーはレイバーがいなければ解決には至らなかっただろう。「機動警察パトレイバー 劇場版」は、ある種の人間とロボットの共存関係を示した作品だと言える。しかし、 映画が無事にハッピーエンドを迎えられたのは、「ロボットを悪にしてはいけない」と“善” を信じる気持ちが主人公にあったからだという点も忘れてはいけない。

「レイバーを悪役にしちゃいけないよ」。必要な手綱は、人の手に握られているのである。

--最後に編集部より--

みなさん、いかがでしたか? 暴走するロボットを想像したくはないですが、もしそんなことが起きてしまったら、どんな行動をとるのでしょう? ロボットの暴走を食い止めるため だったら、自分がペットのように愛着をもっているロボットを犠牲にできるのでしょうか。 難しい選択ですよね。 遠い未来の話のようにも聞こえるかもしれませんが、そう遠くない将来、似たような悩み にぶつかるのかもしれません。たとえロボットが原因で問題が起きてしまったとしても 「ロボット = 悪」と単純な構図でロボットを排除せずに、人とロボットが住みやすい社会 を作れればと思います。