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考え、議論するフォーラム / インタビュー

「島耕作」作者の弘兼憲史さんとの対話
ただ便利なだけのロボットってつまらない?

感情を持っていた手塚治虫さんのロボット

弘兼:僕ら団塊世代にとって思い出に残っているロボットといったら、『鉄腕アトム』と『鉄人28号』でしょうね。鉄人28号は、主人公の金田正太郎君が使うリモコンに、たった2本の操縦桿しかないのに、なぜあんな動きができるんだろうと思って観ていました。(笑)

蓮実すごくわかります(笑)

弘兼横山光輝さんが描いた鉄人は、人間が操縦するので意思がないんですけど、手塚治虫さんが描いたアトムは、意思を持って動くという違いがありました。
手塚治虫さんはやっぱり先進性があって、僕は『アポロの歌』という作品で、人間のような感情を持って反乱するロボットの存在を初めて知りました。

蓮実知りませんでした。今度読んでみます。

弘兼少し前に『黄昏流星群』で、これから人間にとって必要なロボットは何かというテーマを描いたんです。これから僕ら団塊の世代が高齢になってくると、介護を必要とする人が増える。しもの世話などは、人間がやると嫌なものを見なければいけないし感情も絡んできますから、殺人事件にまでつながったりします。
ああいうところこそ、介護ロボットがあったらいいんじゃないかと思ったわけです。

蓮実はい。我々も介護ロボットの可能性には注目しています。

弘兼『黄昏流星群』に登場するロボットはヒト型で、AI(人工知能)が学習するんですよ。
1回「ここはこうだ」と指定すれば必ずそうやってくれるし、言葉も理解するし、かなり進んだロボットなんです。

ところが、回路が混乱したか何かでロボットに感情が生まれてしまい、介護している相手のおばあちゃんを好きになっていくという話なんです。
そして、そのおばあちゃんの恋人に対して敵意を抱いてしまう。最後はロボットの電池を抜いて死ぬのを見届けるという、ちょっと悲しい話です。

蓮実とても面白いけど、ロボットを本気でやっている我々にとっては、人ごとではない問題を含んでいますね。

弘兼やはり、人の嫌がる仕事をロボットがやってくれるようになると、わかりやすいのではないかと思います。これからロボットの需要がもっとも増えるのは介護だと思いますね。

蓮実介護の現場は、「何をしてほしい」かがわかりやすいんですよね。

それから、手塚治虫先生のおかげもあり、日本人はロボットが大好きなんです。実は、外国の人はロボットが好きとは限らないんですよね。外国の映画では、意外と人間の「敵」になっていることが多くて。

弘兼その通りですね。

蓮実そういう背景のおかげで、「ロボットに対する親近感」という部分ではあまり気を使わないんですけど、逆に日本人は、あまりにも万能なロボットを知りすぎていて、我々のPepperに、鉄腕アトムぐらいのことを期待されてしまうんですよ。

弘兼あー、逆にね。期待が高まりすぎてしまうと。

蓮実ところが介護の現場であれば、「これこれこういう世話をしてほしい」というように、要望がはっきりしているから、ロボットを開発しやすいということはあります。

それと、介護されてる方の傷みというのですかね、世話される負い目みたいなものも深刻なわけですけれど、人間よりもロボットに介護される方がその負い目が少なくなるという話もよくお聞きします。

弘兼いやー、よく分かります。

蓮実今はまだ、人間とロボットとの関係が混沌としていますけども、人間っぽいということが重要なロボットと、ドライに便利に使うためのロボット、というような住み分けが、だんだんできてくるのだと思います。

テクノロジーか、手描きか

蓮実先生は、自分がやっていることにAIが追いついてきたら嫌な感じがしますか?それとも、「AIも進歩したな。オレもがんばろう」となりますか?

弘兼ええ、すごい世界が来たなと、ただ感心するだけでしょうね。AIをライバルにしようなどということは思わないですね。

蓮実そうなんですか。最近は、いろいろな方とロボットの話をしていて、この話題になることが多いんですよ。私自身はそう思わないんですけど、AIに迫られてくると、仕事を奪われるとか、人間がおとしめられると感じている人が多いんですよね。

弘兼うーん。でも僕は、すごい世界が来たなと思って、むしろ楽しむ方でしょうね。

蓮実現時点で、漫画を描くというお仕事において、何かしらテクノロジーの恩恵は受けていらっしゃいますか?

弘兼ええ、アシスタントたちはパソコンを使っています。小さいコマの中に人間を3人くらい描いて表情をつけるとなると、手描きでは大変なんですよ。
そういうときに、パソコンでコマを拡大して、ペン入力のソフトを使うんです。
線の太さも選べるし、スクリーントーンも簡単に貼り付けることができますからね。

蓮実なるほど。さすがにもう、スクリーントーンを切って貼るということはしないんですか?

弘兼ええ、さすがに切って貼るという人は少ないでしょうね。でも、実はうちは切って貼ってるんですよ。パソコンを使って漫画を描くと、データとしては残っても作品そのものが残らないじゃないですか。手描きの原稿が。

これはね、世界に冠たる漫画文化をつくり上げた日本にとって、さびしいことだと思うんですよ。

蓮実おっしゃる通りです。

弘兼僕は大学生時代、駒場の辺りに住んでいたんですけど、日本近代文学館によく行ったんですよね。
夏目漱石や森鴎外の生原稿なんかが展示されていることがあって、変色した原稿用紙に太い万年筆で書いた原稿に、推敲した跡がいっぱいあるんですよ。
ゴチャゴチャっと消したり、こっちからこう持ってきたりとか、そういう葛藤の跡が見て取れるんです。

蓮実なるほどクリエーターだからこそ、そういう葛藤のところが気になるんでしょうね。

弘兼漫画の原画もそういうところがあって、場合によってはタバコを吸いながら描いていて、できた焼け焦げをホワイトで修正しているとか、コーヒーをこぼした跡があるとか、人間が作った歴史みたいなものがあるんですよね。

蓮実そういうのがいいんですよね。
ということはつまり、テクノロジー的にはできることを、先生はあえてやってないということになるんでしょうか?
弘兼:
ええ、僕は「あえて」やってないですね。
アシスタントたちがパソコンで作った画も、必ずプリントアウトして紙の背景に貼らせているんですよ。そして、1枚の版下のようにして残しています。

今は小説家の人もパソコンで文章を作るから生原稿がありませんよね。字が下手だとか悪筆だとかいうことも味になるんですけど、そういうものがないというのは面白くないんですよね。

蓮実私もそう思います。とはいえ近い将来、漫画を描くという作業の中で、ある部分をロボットが担当することはあり得ますか?

弘兼うーん、それはあるでしょうね。
吹き出しは、ペンで描くとけっこうひっかかることがあって、角度によっては描きにくいこともあるんですけど、そんな作業を簡単に処理してくれるロボットなどというのは、あり得るんじゃないかと思います。

蓮実核心部分のひとつである、ストーリーの創造はどうでしょうか?

弘兼それは、難しいでしょう。けど、永遠にダメということはないと思います。
僕は、例えば名作映画『第三の男』のラストシーンなど、いろいろな映画や小説にインスパイアされたものが頭の引き出しにたくさん入っていて、ストーリーを作るときには、「これはあのシーンのイメージが合ってるな」というように、記憶を引き出して使うんですよね。こういう要領で、インプットされた多くのデータを組み合わせてひとつのストーリーを作る作業だったら、やってやれないことはないでしょうね。

蓮実確かに。今、ネットの動画サービスが制作するオリジナル映画のクオリティがどんどん上がっていて、アカデミー賞を狙う位置にまで来ていますが、「必ず○分以内に△%の人が満足するシーンを入れなさい」というように、ストーリーの波まで厳密に指定されると聞いたことがあります。

弘兼ええ、ストーリーの基本とされる「起承転結」という流れを作る作業は、AIでできるんでしょうね。
僕らの場合は、いきなり事件が起きて、なぜその事件が起きたかということを過去に遡っていく「承起転結」のパターンが多いんですけど、そういうものも指定すれば多分できるんでしょうね。

蓮実なにもかも、AIがやる、となるとちょっと先のことかもしれませんけど、人間の補佐的なことであれば、色々と可能性があると思います。

弘兼でも、それではありふれたものしかできないでしょうね。
やはり、突拍子もないアイデアは人間が考えないと出てこない。
でも、1回それを覚えさせたら学習して、次からはAIが突拍子もないことをやるようになるかもしれません。将棋と同じですよね。
最初は人間が勝っても、AIは負けたことを学習していくから、どんどん勝てなくなりますよね。

蓮実はい、おっしゃる通りです。
AIやロボットに関わっていると、「アイデアなるものが、神から突然降り注ぐものなのか、どこまでも経験から絞り出すものなのか、どっちなのか?」という問題をついつい考えてしまったりします。

弘兼確かに、そうですね。漫画でも小説でも、まったくゼロからストーリーを生み出す人はいないですよ。
子どもの頃の思い出だとか、読んで影響を受けたものとか、ニュースで見た事件のこととかが、記憶として残っていて、誰かの影響を受けながら書いているわけですから。

僕の漫画も手塚治虫さんの模写から始まったんです。
模写をしているうちに、自分のオリジナリティが出てくるんですよ。

蓮実なるほど。
先生にお聞きするのはたいへん失礼ですが(笑)、気持ち良く作品を描いたら、「あれ?何かの作品に似ちゃった」なんていうことはあるんですか?

弘兼ええ、それはありますよ。
『ザ・スペース』というSF漫画を1年間連載したときの話なんですど、僕はあまりSF小説を読まないので自分の頭の中でアイデアを構築して描いたんです。

10話くらい描いたんですが、編集者が新作を読むたびに、「これは○○の○○に似ている」ということを言うんですよ。
僕が思いつくことくらい、先人が全部やってるということなんですよ。

蓮実へえー。面白いですね。

弘兼そこで、「ちょっと待てよ、真似してないのに先人達の作品に似ているということは、オレも大したものじゃないか」とプラス思考で考えましたけどね。(笑)
そうやって考えると、SFなんかのアイデアは、もう出尽くしている感じがありますね。

蓮実そうなのかもしれませんね。
有名な作曲家の曲を学ばせたAIに新しい曲を作らせるという研究があるんですけど。
AIの作品と、その作曲家の作品を混ぜて良いほうを選ばせると、AIの作品のほうが人気が高かったということがありました。

弘兼それは凄いですね。

蓮実でも、もともとのメロディがあったからAIが学べたのであって、ゼロから生み出したわけではないですよね。だから、AIが凄いわけではなくて、単に学ぶことに長けているだけだという見方もあります。

ふらりと入ったバーのママがロボットだったら

蓮実先生の『男子の作法』という本だったと思うんですが、旅先で寄った街で、面白そうな名前のバーに勇気を出して入ってみるのもスリルがあって楽しいというお話がありました。入ってみたらママがロボットだったというのは面白くありませんか?

弘兼ははは。「来夢来人」とか「人来夢」とかいう店ではなくて、ジャズのタイトルが店名になっているところが割と安心して入れるという話ですね。(笑)

勇気を出してドアを開けてみたら、カウンターの中からちょっと寂しげな表情で「いらっしゃい」と迎えてくれたのが、実はロボットだったなんて面白いですね。
『ブレードランナー』のレプリカントみたいな存在だったりして。
今度『黄昏流星群』に描いてみようかな。

蓮実実は、我々がPepperというロボットを作るときに、「スナックのママ」が理想だという話をしたことがあるんですよ。

弘兼へえー。

蓮実ひとつの要素は、ちょっとエロティックというか本能に訴えかける部分。
AIというと理屈っぽいイメージがありますけど、カワイイとか楽しいとか、何とかしたいという風に思わせる存在です。

もうひとつの要素で、とても大事なことは、「口が堅いこと」です。
スナックのママに何をしゃべっても、嫁にバレることはないというのが、いいところですよね。

弘兼でも、中には、しゃべっちゃうやつもいますけどね。(笑)

蓮実(笑) 最初は、「家に家族をひとり増やします」というようなキャッチコピーを考えていたんですけど、それは技術的に簡単じゃないし、おこがましい。
誰を連れて行っても何となくいい雰囲気にしてくれるという「ママ」という存在は、ロボットにできるギリギリのところかなと思ったわけです。

私は、島耕作シリーズは全巻読んでるんですけど、先生の漫画は、スナックやバーでちょっと色っぽい人に助けてもらったり、インスピレーションをもらったりするシーンが結構ありますよね。

弘兼ええ、島耕作は、女性に助けられるという「男の夢」みたいなものを入れてますね。
強力な女性がいて、その人の力を借りて最終的に窮地を脱するというストーリーが多いんですよね。

蓮実なるほど。今度はロボットに助けられるというのはどうでしょう。

弘兼うーん、大町久美子が今ガンだから、死んだらそっくりなロボットを作るとかね。
そういうSFのストーリーがあり得ますよね。

蓮実あーなるほど、コピーするんですね。
コピーといえば、今、「マインドアップロード」といって脳をまるごとコピーできるかという論争があるんですけど、これが結構本気でやっている人がいます。

弘兼ええ、それができたらコワイ世界になりますね。

蓮実はい、記憶というものが完全に電気信号なのか、そこには神の何かが介在するのかということは、もう冗談抜きの論争が行われていますね。
一方でDNAの解明はすごい勢いで進んでいますから、あとは記憶や本能がどこに格納されているのか、それさえわかれば、いずれ脳の完全なコピーができた、みたいなことになるのかもしれません。

弘兼いやー、それが可能になったら、田中角栄を100年後まで生きさせることができるわけですよね。ああいう実行力がある人を生かしておくことができる。
あるいは、権力者が自分のコピーを作って君臨し続けてるなんていうこともあるかもしれません。
ちょっとコワイ気がしますけどね。

蓮実そうなんです。
ロボットの世界は、技術的にそういうちょっと気持ち悪い要素を含んでいるものですから、“シンギュラリティ”という言葉を聞くと、コワイという印象をもつ人が多いんですよね。

日本ではアトムやドラえもんがいたおかげで、そういうイメージはあまりないんですけども、外国ではロボットに対して、ちょっと気持ち悪いという印象を持つ人が多いんです。

それと、人間の形は「主が造りたもうたもの」であるから、人間が勝手に作ってはいけないというキリスト教的な考え方から来る反発もあります。

弘兼ゲノム編集によって遺伝子を変え、完全な人間を作る人体実験をやった国もあるということですけど、もう、心臓病にかからない体質を作る、骨折しにくい体質を作る、筋肉が強くて速く走れる体質を作るといったことも、できつつあるらしいんですよ。

蓮実素晴らしいような、怖いような、ですね。

弘兼一度パンドラの箱を空けてしまうと、人類は絶対に行くところまでいきますからね。
たとえば劣った人間を減らしていくということは、昔ナチスがやった優性政策に通じる危険な行為だとして、神の領域を犯しているのではないかと大変な問題になっているんですよね。

医学の発達もAIの発達も、どこまで人間が手を入れていいのかということですよね。
もう、かなり突っ込んだところまで手を入れていますけど。

蓮実はい、この流れは、もう止められないんじゃないかという気がしますね。

たまに失敗するロボット

弘兼AIがどんどん発達して、ロボットが「それ嫌だよ」と逆らったり、感情があるために失敗を犯すことを考えると、それは人間にとって必要なものかどうか難しいところですね。

蓮実でも先生、逆らったり失敗したりするという人間的な部分がなくて、ただ従順なロボットだとしたら一緒にいて楽しくないですよね。

弘兼なるほど、逆にね。
そういうエモーショナルな部分も、大事になるのかもしれませんね。

ゴルフのドライバーで、確実に250ヤード飛んでフェアウェイのど真ん中に打てるものがあっても、つまらないですよね。
これ持っていてもしょうがないだろうという気持ちになると思います。

蓮実私は確実に買いますけど。(笑)

弘兼誰にも買ったとは言わず、ひそかに買っているかもしれませんね。(笑)
パターでも、「どんな状況でも2パットで入るパター」があったら買うでしょうけど、そのうち面白くなくなると思うんですよ。

蓮実やっぱり、ゴルフの話はわかりやすいですね。

弘兼ええ、失敗しなければ面白くないという人間の心理があるんですよね。

蓮実デキの悪い子ほど可愛いという心理と似ていて、我々はそこに便乗して「ちょっとダメな子だけど可愛がってくださいな」なんて言っているんですけど、ちょっと失敗しちゃって人間を盛り立てるようなところに、人間に愛されるロボットのヒントがあるんじゃないかなと思っています。

弘兼でも、芝の状態を読む最先端のセンサーが搭載されて、2パットで入るパターを作ったら1,000万円でも売れますよ。

蓮実先生、なぜ2パットで入るパターなんですか?
1パットって言えばいいのに。(笑)

弘兼いやいや、「2パットで入るパター」は、どんな状況においても必ず50~60センチまで寄せることができるんです。
そこから先の2パット目を外したら、あなたのせいですよということになるんですよ。(笑)

蓮実なるほど。たまには2パットに失敗することもあるんですね。(笑)

完璧な機能を必要とする介護のような現場と、ちょっとした失敗のある方が喜ばれる娯楽やエンターテイメントの場では、求められるものが違うということですね。

弘兼ええ、そうですね。

蓮実売るという立場にいると、今はまだ「完璧な機能」を目指すことを考えるんですけど、たまに失敗して人間に愛されるロボットが売れるようになったら面白いですね。
それは、誰かがやらなければ始まりません。
今日はロボットの未来について、楽しみながら先生にヒントをいただきました。
ありがとうございました。

弘兼こちらこそ、面白い未来を考えて楽しい時間を過ごしました。
ありがとうございます。

※この記事は、対談内容をもとに加筆・編集したものです。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)氏

漫画家。
山口県岩国市出身。
松下電器産業(現・パナソ ニック)勤務を経て、1974 年「ビッグコミック」(小学館)掲載の『風薫る』にてデビュー。代表作は『課長 島耕作』シリ ーズほか、『人間交差点』『黄昏流星群』など。サラリーマンとしての経歴を生かし、現代社会に生きるさまざまな大人達 の生活や、葛藤をテーマとした作品を描いている。2018 年には、エッセイ『弘兼流「ひとり力」で孤独を楽しむ』を発表。

蓮実一隆(はすみ・かずたか)

ソフトバンクロボティクス取締役
1965年、埼玉県蕨市生まれ。
元テレビ朝日プロデューサー。徹子の部屋、報道ステーション等を担当。
2008年よりソフトバンク。ロボットのUI、コンテンツ、マーケティング等を担当。